ビットコインなしの東京オリンピック「日本って意外と後進国だったんだね。」

国家権力を象徴する、とりわけ顕著なものの一つは貨幣であり、それはどの国の紙幣にも歴代の大統領や君主の肖像が印刷されていることからも明らかです。しかし、リーマンショックなどによって、政府や金融機関がコントロールする金融取引に限界を感じている人々が増え始め、その中から仮想通貨「ビットコイン」は生まれました。

ビットコインはネット上で流通するため、電子マネーと同じもののようによく勘違いされますが、この両者はまったく異なるもので、例えば日本国内で電子マネーによって決済する際、実物の貨幣を使用していないものの決済通貨は、やはり政府が発行した日本円であるのに対し、ビットコインの場合は政府が発行する円とはまったく関係のない貨幣を使っていることになります。

↑ビットコインによってお金を管理する組織が無くなる

つまり、ビットコインはその発行や管理が中央銀行によってなされないところが歴史上存在したあらゆる貨幣と異なり、個人間で直接取り引きを行うことが可能で、しかも、政府や金融機関の仲介が必要ないため、手数料が全くかからないか、かかるとしても従来に比べて格段に低くおさえることができます。

ビットコインの始まりは2008年10月31日にネット上に投稿された論文だとされています。その投稿者である「サトシ・ナカモト(Satoshi Nakamoto)」は日本人なのか、特定の個人なのか、それとも複数なのか、未だに正体不明とされているものの、「彼」は論文の中で国の管理する通貨システムを次のように批判しました。

「従来の通貨システムの根本的な問題は、すべてが信用のうえに成り立っていることである。通貨の価値を落とさないようにするためには中央銀行を信用しなければならないが、その歴史は裏切りの例で満ち溢れている。」(1)

確かに1997年のアジア通貨危機も、2008年に起きた世界金融危機(リーマンショック)も、すべて通貨に対する信用が収縮したことが原因で起きていることは、彼の指摘が核心を突いていることを示しています。

↑もうお金を管理する中央銀行の信用は丸潰れ

中央銀行に代わって信用力を創造するため、「サトシ・ナカモト」は「ブロックチェーン」という画期的な暗号法を提唱しましたが、米国国務省の上級顧問を務め、イノベーションの専門家として活躍したアレック・ロス氏によると、ブロックチェーンはいわば、「すべての取引が記録される巨大な台帳」のようなものなのだそうです。

そして、その「台帳」は透明性を確保するために、誰に対しても公開されていると同時に、改ざんはできない仕組みになっていて、たとえ国家がこのビットコインという通貨システムを排除しようと思っても、世界中に分散している台帳をすべて破壊しなければならないため、ビットコインのシステムは、国家権力をもっても止められない大きな力を秘めていると言えます。

↑誰も操作できないところで、すべての取引内容が公開される

アメリカの商品先物取引委員会の理事であるクリストファー・ジャンカルロ氏は、リーマンショックの際にも、ブロックチェーンのように「台帳」にすべての取引履歴が記録され、誰もが閲覧できる透明性があったならば、当局は信用力の悪化を見つけることができ、金融危機を回避することができたかもしれないと述べたように、確かにブロックチェーンの技術はビットコイン以外の金融取引にも応用可能であり、MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏はその点を次のように述べます。

「私の直感では、ブロックチェーンはいずれ銀行にも法律にも会計にもなる。インターネットがメディアにも小売りにも広告にもなったように。」(2)

↑法律も会計も、そして金融も、しっかりとした監視する目があれば、暴走を防ぐことができる

ビットコインの最大の課題は、ネット上で取引されることによって避けることができないセキュリティの脆弱性であり、実際、2014年にはビットコイン交換所である企業「マウントゴックス」から大量のビットコインが盗まれ、最終的な被害は2兆6,630億円にもなりました。

これを問題視し、仮想通貨に対して否定的な見方をする経済学者も多くいるものの、仮想通貨は単なる電子決済のツールとしての役割以上に、中央権力に逆らえなかった従来型の金融事情に対する人々の見方を変えるという社会的な意義が大きいことは事実です。

↑国が管理する通貨に比べて、ビットコインの安全性はまだまだ低い

かつて中央政府の存在を否定する声を上げるのは、ハッカーや新興宗教の指導者、あるいはパンクロッカーくらいで、一般人は蚊帳の外でしたが、ブロックチェーンという暗号テクノロジーは、中央集権のコントロール下ではない環境で、個人が経済取引を営める可能性を提示してくれます。

単なる紙に中央政府が価値を付与することによって、通貨システムが機能している世界が、ブロックチェーンによって、そうした信用を創造することが不要になるため、その延長線上には議会や官僚すらも必要なくなる社会が現実性を帯びて見え隠れするようになっています。

↑ビットコインの先には中央権力が必要ない社会が見えてくる

インターネットが今や飲み水のように普及し、欠かせないものとなった結果、オープンソースのソフトウェアによって維持されるビットコインが登場したのは必然的な事実であり、今後もオープンな社会が進めば進むほど、個人は透明性の高い自由を得ることを選び、中央権力の必要ないビットコインのようなオープンな通貨に頼るようになるでしょう。

そういった未来を見据え、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏は「2020年の東京オリンピックで、東京に来た外国人がビットコインを使えないと知ったら、日本はなんて後進国なのか、と思われる」と述べて、2020年までに一部の人だけでなく、ビットコインを一般の人でも使えるシステムに整備しないと日本は世界から取り残されると懸念しています。

↑このまま行けば、日本はオリンピックという大きなチャンスを逃すことになる

思い起こせば1964年の東京オリンピックが、日本にクレジットカードを普及させる契機になったように、オープン化する世界の潮流を見据えると、2020年のオリンピックでビットコインの流通を加速させることも間違いなくできるはずです。その時が来る前にわたしたちは、この転機によって個人が自由と同時に、より多くの責任とリスクを担わなければならない時代を迎えるのだということを認識すべきなのかもしれません。

参考書籍
1. アレック・ロス著「未来化する社会-世界72億人のパラダイムシフトが始まった」(2016年、ハーパーコリンズ・ジャパン)Kindle 1982
2. アレック・ロス著「未来化する社会-世界72億人のパラダイムシフトが始まった」(2016年、ハーパーコリンズ・ジャパン)Kindle 2329